狐憑 / 狐凭 (被附身的人)
作者:中島敦 / 中岛敦
[日] ネウリ部落のシャクに憑つきものがしたという評判である。色々なものがこの男にのり移るのだそうだ。鷹たかだの狼おおかみだの獺かわうそだのの霊れいが哀あわれなシャクにのり移って、不思議な言葉を吐はかせるということである。
[中] 听说涅乌里部落的沙库被什么东西附身了。据说有形形色色的东西附在这个男人身上。老鹰、狼、水獭等各种生灵的魂魄附在了可怜的沙库身上,让他吐出许多不可思议的话语。
[日] 後に希臘ギリシャ人がスキュテイア人と呼んだ未開の人種の中でも、この種族は特に一風いっぷう変っている。彼等かれらは湖上に家を建てて住む。野獣やじゅうの襲撃しゅうげきを避さけるためである。数千本の丸太を湖の浅い部分に打込うちこんで、その上に板を渡わたし、そこに彼等の家々は立っている。床ゆかのところどころに作られた落し戸を開あけ、籠かごを吊つるして彼等は湖の魚を捕とる。独木舟を操り、水狸や獺を捕とらえる。麻布あさぬのの製法を知っていて、獣皮と共にこれを身にまとう。馬肉、羊肉、木苺きいちご、菱ひしの実等などを喰くい、馬乳や馬乳酒を嗜たしなむ。牝馬めすうまの腹に獣骨の管を挿入さしいれ、奴隷どれいにこれを吹ふかせて乳を垂下したたらせる古来の奇法きほうが伝えられている。
[中] 在后来被希腊人称为“斯基泰人”的未开化人种中,这个种族也显得格外与众不同。他们把房屋建在湖面上居住,这是为了躲避野兽的袭击。他们在湖泊的浅水区打下数千根圆木,在上面铺上木板,他们的家就建在这些木板上。他们打开地板上四处设置的活板门,吊下竹篓在湖里捕鱼。他们划着独木舟,捕捉海狸和水獭。他们懂得麻布的制作方法,将其与野兽皮毛一起穿在身上。他们吃马肉、羊肉、覆盆子和菱角,喜欢喝马奶和马奶酒。他们还流传着一种古老的奇特方法:将兽骨制成的管子插进母马腹部,让奴隶吹气,从而让马奶滴落下来。
[日] ネウリ部落のシャクは、こうした湖上民の最も平凡へいぼんな一人であった。
[中] 涅乌里部落的沙库,就是这些湖上居民中最平凡的一员。
[日] シャクが変になり始めたのは、去年の春、弟のデックが死んで以来のことである。その時は、北方から剽悍ひょうかんな遊牧民ウグリ族の一隊が、馬上に偃月刀えんげつとうを振ふりかざして疾風しっぷうのごとくにこの部落を襲おそうて来た。湖上の民は必死になって禦ふせいだ。初めは湖畔こはんに出て侵略者しんりゃくしゃを迎むかえ撃うった彼等も名だたる北方草原の騎馬兵きばへいに当りかねて、湖上の栖処すみかに退いた。湖岸との間の橋桁はしげたを撤てっして、家々の窓を銃眼じゅうがんに、投石器や弓矢で応戦した。独木舟を操るに巧たくみでない遊牧民は、湖上の村の殲滅せんめつを断念し、湖畔に残された家畜かちくを奪うばっただけで、また、疾風のように北方に帰って行った。後あとには、血が染にじんだ湖畔の土の上に、頭と右手との無い屍体したいばかりが幾いくつか残されていた。頭と右手だけは、侵略者が斬取きりとって持って帰ってしまった。頭蓋骨ずがいこつは、その外側を鍍金ときんして髑髏杯どくろはいを作るため、右手は、爪つめをつけたまま皮を剥はいで手袋てぶくろとするためである。シャクの弟のデックの屍体もそうした辱はずかしめを受けて打捨てられていた。顔が無いので、服装ふくそうと持物とによって見分ける外はないのだが、革帯の目印と鉞まさかりの飾かざりとによって紛まぎれもない弟の屍体をたずね出した時、シャクはしばらく茫ぼうっとしたままその惨みじめな姿を眺ながめていた。その様子が、どうも、弟の死を悼いたんでいるのとはどこか違ちがうように見えた、と、後あとでそう言っていた者がある。
[中] 沙库开始变得有些不正常,是在去年春天他弟弟德克死后。那时,北方来了一队彪悍的游牧民乌格里族,他们在马背上挥舞着偃月刀,如疾风般袭击了这个部落。湖上居民拼死抵抗。起初他们在湖畔迎击侵略者,但终究敌不过大名鼎鼎的北方草原骑兵,只好退回湖上的住所。他们拆毁了连接湖岸的桥梁,把家里的窗户当作射击孔,用投石器和弓矢应战。不擅长操纵独木舟的游牧民放弃了歼灭湖上村落的念头,只抢走了留在湖畔的家畜,又如疾风般退回了北方。之后,在被鲜血染红的湖畔土地上,只留下了几具没有头颅和右手的尸体。他们的头颅和右手被侵略者砍下带走了。头骨要在外侧镀金做成骷髅杯,而右手则要连着指甲剥下皮来做成手套。沙库的弟弟德克的尸体也遭受了这样的屈辱,被弃置在那里。因为没有脸,只能靠服装和随身物品来辨认。当沙库通过皮带上的记号和斧头上的装饰,确凿无疑地找出弟弟的尸体时,他茫然地站了很久,凝视着那悲惨的模样。后来有人说,他当时的神态,看起来怎么都不太像是在哀悼弟弟的死。
[日] その後間もなくシャクは妙みょうな譫言うわごとをいうようになった。何がこの男にのり移って奇怪きかいな言葉を吐かせるのか、初め近処の人々には判わからなかった。言葉つきから判断すれば、それは生きながら皮を剥がれた野獣の霊ででもあるように思われる。一同が考えた末、それは、蛮人ばんじんに斬取られた彼の弟デックの右手がしゃべっているのに違いないという結論に達した。四五日すると、シャクはまた別の霊の言葉を語り出した。今度は、それが何の霊であるか、すぐに判った。武運拙つたなく戦場に斃たおれた顛末てんまつから、死後、虚空こくうの大霊に頸筋くびすじを掴つかまれ無限の闇黒あんこくの彼方かなたへ投げやられる次第を哀かなしげに語るのは、明あきらかに弟デックその人と、誰だれもが合点がてんした。シャクが弟の屍体の傍に茫然と立っていた時、秘ひそかにデックの魂たましいが兄の中に忍しのび入ったのだと人々は考えた。
[中] 此后不久,沙库开始说起奇怪的胡话。起初,附近的人不知道到底是什么附体让他吐出这些奇怪的言语。从语气来判断,那似乎是被活活剥皮的野兽的灵魂。大家商议之后得出结论:那肯定是他在被野蛮人砍去的弟弟德克的右手在说话。过了四五天,沙库又开始用另一种灵魂的口吻说话。这一次,大家立刻就明白了那是什么灵魂。他哀伤地讲述着武运不济倒在战场上的经过,以及死后被虚空中的大灵揪住后颈,扔向无尽黑暗彼方的过程——大家一致认为,这明明就是弟弟德克本人。人们觉得,当沙库茫然地站在弟弟尸体旁时,德克的灵魂偷偷溜进了哥哥的体内。
[日] さて、それまでは、彼の最も親しい肉親、及およびその右手のこととて、彼にのり移るのも不思議はなかったが、その後一時平静に復かえったシャクが再び譫言を吐き始めた時、人々は驚おどろいた、今度はおよそシャクと関係のない動物や人間共の言葉だったからである。
[中] 虽说在此之前,因为是他最亲密的骨肉同胞以及弟弟的右手,附在他身上也并不奇怪,但当之后一度恢复平静的沙库再次开始说胡话时,人们震惊了。因为这一次,说出来的全都是与沙库毫无关系的动物或人们的话语。
[日] 今までにも憑きもののした男や女はあったが、こんなに種々雑多なものが一人の人間にのり移った例ためしはない。ある時は、この部落の下の湖を泳ぎ廻まわる鯉こいがシャクの口を仮かりて、鱗族達いろくずたちの生活の哀しさと楽しさとを語った。ある時は、トオラス山の隼はやぶさが、湖と草原と山脈と、またその向うの鏡のごとき湖との雄大ゆうだいな眺望ちょうぼうについて語った。草原の牝狼が、白けた冬の月の下で飢うえに悩なやみながら一晩中凍いてた土の上を歩き廻る辛つらさを語ることもある。
[中] 以前部落里也有过被附身的男女,但还从来没有哪个人被如此种类繁多的东西同时附体的先例。有时,是这条部落下方湖水里游弋的鲤鱼借沙库之口,讲述水族生活的悲哀与快乐。有时,是托鲁斯山的猎鹰,讲述湖泊、草原、山脉以及那更远处如镜面般的湖泊那雄伟壮丽的景色。有时,又是草原上的母狼,诉说在惨白的冬月下,一边忍受饥饿的折磨,一边在冻土上徘徊整夜的艰辛。
[日] 人々は珍めずらしがってシャクの譫言を聞きに来た。おかしいのは、シャクの方でも(あるいは、シャクに宿る霊共の方でも)多くの聞き手を期待するようになったことである。シャクの聴衆ちょうしゅうは次第にふえて行ったが、ある時彼等の一人がこんなことを言った。シャクの言葉は、憑きものがしゃべっているのではないぞ、あれはシャクが考えてしゃべっているのではないかと。
[中] 人们觉得稀奇,纷纷跑来听沙库的胡话。有趣的是,沙库本人(或者说寄宿在他体内的灵魂们)也开始期待更多的听众了。沙库的听众渐渐多了起来,但有一次其中一个人说了这样的话:沙库的话,不是附体在说,那难道不是沙库自己编出来说的吗?
[日] なるほど、そう言えば、普通ふつう憑きもののした人間は、もっと恍惚こうこつとした忘我の状態でしゃべるものである。シャクの態度には余り狂気きょうきじみた所がないし、その話は条理が立ち過ぎている。少し変だぞ、という者がふえて来た。
[中] 听他这么一说,确实如此。通常被附身的人,说话时应该处于一种更加恍惚、忘我的状态。而沙库的态度并没有多少疯狂的影子,而且他的故事也太有条理了。觉得事情有些蹊跷的人渐渐多了起来。
[日] シャク自身にしても、自分の近頃ちかごろしている事柄ことがらの意味を知ってはいない。もちろん、普通のいわゆる憑きものと違うらしいことは、シャクも気がついている。しかし、なぜ自分はこんな奇妙な仕草を幾月いくつきにも亘わたって続けて、なお、倦うまないのか、自分でも解わからぬ故、やはりこれは一種の憑きもののせいと考えていいのではないかと思っている。初めは確かに、弟の死を悲しみ、その首や手の行方ゆくえを憤いきどおろしく思い画えがいている中うちに、つい、妙なことを口走ってしまったのだ。これは彼の作為さくいでないと言える。しかし、これが元来空想的な傾向けいこうを有もつシャクに、自己の想像をもって自分以外のものに乗り移ることの面白さを教えた。次第に聴衆が増し、彼等の表情が、自分の物語の一弛一張いっしいっちょうにつれて、あるいは安堵あんどの・あるいは恐怖きょうふの・偽いつわりならぬ色を浮うかべるのを見るにつけ、この面白さは抑おさえきれぬものとなった。空想物語の構成は日を逐おうて巧みになる。想像による情景描写びょうしゃはますます生彩せいさいを加えて来る。自分でも意外な位、色々な場面が鮮あざやかにかつ微細びさいに、想像の中に浮び上って来るのである。彼は驚きながら、やはりこれは何かある憑きものが自分に憑いているのだと思わない訳に行かない。但ただし、こうして次から次へと故知らず生み出されて来る言葉共を後々のちのちまでも伝えるべき文字という道具があってもいいはずだということに、彼はいまだ思い到いたらない。今、自分の演じている役割が、後世どんな名前で呼ばれるかということも、もちろん知るはずがない。
[中] 就沙库自己而言,他也不明白自己最近在做的这些事到底意味着什么。当然,他也意识到这似乎跟一般所谓的附身不同。但是,为什么自己能接连好几个月持续这种奇妙的行为,而且还乐此不疲,他自己也搞不懂,所以他觉得,这大概还是可以归结为一种附体现象吧。起初确实是因为悲痛于弟弟的死,在悲愤地想象他首级和右手的去向时,不由自主地脱口而出了一些奇怪的话。这可以说并非他的刻意作为。然而,这却给生来就具有幻想倾向的沙库,带来了一种凭借自我联想去“附身”于自身之外事物的乐趣。随着听众逐渐增多,看着他们的表情随着自己故事的起伏跌宕,时而露出安心、时而显露恐惧的真实神色,这种乐趣变得越来越难以抑制。他虚构故事的结构一天比一天精巧。凭借想象的场景描写也越来越生动。连他自己都感到意外,各种各样的场景竟如此鲜明而细致地浮现在脑海中。他一边惊讶,一边忍不住认为,这必定还是有什么东西附在了自己身上。只不过,他此时还未曾想到,对于这些源源不断、莫名涌现的话语,世间本该有一种叫做“文字”的工具将其流传到后世。至于自己现在所扮演的角色在后世会被称作什么,他当然更无从知晓。
[日] シャクの物語がどうやら彼の作為らしいと思われ出してからも、聴衆は決して減らなかった。かえって彼に向って次々に新しい話を作ることを求めた。それがシャクの作り話だとしても、生来凡庸ぼんようなあのシャクに、あんな素晴らしい話を作らせるものは確かに憑きものに違いないと、彼等もまた作者自身と同様の考え方をした。憑きもののしていない彼等には、実際に見もしない事柄について、あんなに詳くわしく述べることなど、思いも寄らぬからである。湖畔の岩陰いわかげや、近くの森の樅もみの木の下や、あるいは、山羊やぎの皮をぶら下げたシャクの家の戸口の所などで、彼等はシャクを半円にとり囲んで坐すわりながら、彼の話を楽しんだ。北方の山地に住む三十人の剽盗ひょうとうの話や、森の夜の怪物の話や、草原の若い牡牛おうしの話などを。
[中] 即使人们开始觉得沙库的故事大概是他自己编造的,听众也丝毫没有减少。相反,他们不断地要求他编出新的故事。因为他们和创作者本人有着相同的想法:就算这是沙库编造的故事,能让天生平庸的沙库编出如此精彩故事的,必定是某种附体之物。对于没有被附身的他们来说,根本无法想象怎么能对那些自己从未亲眼见到的事情描述得如此详尽。在湖畔的岩石阴影下,在附近森林的冷杉树下,或者在挂着山羊皮的沙库家门口,他们围成半圆形坐着,津津有味地听着他的故事。听他讲住在北方山地的三十名强盗的故事,森林黑夜里的怪物的故事,或者草原上一头年轻公牛的故事。
[日] 若い者達がシャクの話に聞き惚ほれて仕事を怠おこたるのを見て、部落の長老連が苦にがい顔をした。彼等の一人が言った。シャクのような男が出たのは不吉ふきつの兆きざしである。もし憑きものだとすれば、こんな奇妙な憑きものは前代未聞ぜんだいみもんだし、もし憑きものでないとすれば、こんな途方とほうもない出鱈目でたらめを次から次へと思いつく気違いはいまだかつて見たことがない。いずれにしても、こんな奴やつが飛出したことは、何か自然に悖もとる不吉なことだと。この長老がたまたま、家の印として豹ひょうの爪を有もつ・最も有力な家柄の者だったので、この老人の説は全長老の支持する所となった。彼等は秘かにシャクの排斥はいせきを企たくらんだ。
[中] 看到年轻人们听沙库的故事听得入迷从而荒废了劳作,部落的长老们面露愠色。其中一人说道:出现了沙库这样的男人,是不祥之兆。如果说是被附身了,这种奇妙的附身简直前所未闻;如果不是附身,能一个接一个想出如此荒诞不经的胡言乱语的疯子,还真是从未见过。无论如何,冒出这样一个家伙,绝对是某种违背自然的不祥之兆。刚好这位长老所属的家族以豹爪为图腾,是部落里最有势力的名门,因此这位老人的说辞得到了全体长老的支持。他们开始暗中策划排挤沙库。
[日] シャクの物語は、周囲の人間社会に材料を採ることが次第に多くなった。いつまでも鷹や牡牛の話では聴衆が満足しなくなって来たからである。シャクは、美しく若い男女の物語や、吝嗇けちで嫉妬しっと深い老婆ろうばの話や、他人には威張いばっていても老妻にだけは頭の上がらぬ酋長しゅうちょうの話をするようになった。脱毛期だつもうきの禿鷹はげたかのような頭をしているくせに若い者と美しい娘むすめを張合って惨みじめに敗れた老人の話をした時、聴衆がドッと笑った。余り笑うのでその訳を訊たずねると、シャクの排斥を発議した例の長老が最近それと同じような惨めな経験をしたという評判だからだ、と言った。
[中] 沙库的故事,渐渐开始更多地从周围的人类社会中取材。因为听众已经不再满足于永远只听老鹰或公牛的故事了。沙库开始讲述年轻俊美的男女的故事,吝啬且嫉妒心极强的老太婆的故事,以及在别人面前耀武扬威但在老妻面前却抬不起头的酋长的故事。当他讲到一个顶着如同脱毛期秃鹫般的脑袋,却硬要和年轻人争夺美丽少女,最终惨败的丢脸老头的故事时,听众们哄堂大笑。因为他们笑得太厉害了,沙库问他们原因,有人告诉他,因为有传闻说提议排挤沙库的那位长老,最近刚好经历了同样悲惨的遭遇。
[日] 長老はいよいよ腹を立てた。白蛇はくじゃのような奸智かんちを絞しぼって、彼は計をめぐらした。最近に妻を寝取ねとられた一人の男がこの企くわだてに加わった。シャクが自分にあてこするような話をしたと信じたからである。二人は百方手を尽つくして、シャクが常に部落民としての義務を怠っていることに、みんなの注意を向けようとした。シャクは釣つりをしない。シャクは馬の世話をしない。シャクは森の木を伐きらない。獺の皮を剥がない。ずっと以前、北の山々から鋭するどい風が鵝毛がもうのような雪片を運んで来て以来、誰か、シャクが村の仕事をするのを見た者があるか?
[中] 长老愈发恼怒了。他绞尽如白蛇般狡猾的脑汁,设下了计谋。一个最近被戴了绿帽子的男人也加入到这个阴谋中。因为他深信沙库讲了指桑骂槐讽刺他的故事。两人千方百计地想把大家的注意力引向沙库经常怠慢作为部落村民义务这件事上。沙库不钓鱼。沙库不照顾马匹。沙库不去森林里砍柴。沙库不剥水獭皮。自从很久以前,凛冽的北风从北方群山吹来鹅毛大雪之后,有谁见过沙库做过村里的工作吗?
[日] 人々は、なるほどそうだと思った。実際、シャクは何もしなかったから。冬籠ふゆごもりに必要な品々を頒わけ合う時になって、人々は特に、はっきりと、それを感じた。最も熱心なシャクの聞き手までが。それでも、人々はシャクの話の面白さに惹ひかれていたので、働かないシャクにも不承無承ふしょうぶしょう冬の食物を頒け与あたえた。
[中] 人们一想,还真是这么回事。因为事实上沙库确实什么也没做。尤其到了分配过冬所需物资的时候,人们特别清楚地感受到了这一点。甚至连那些最热心的听众也是如此。尽管如此,人们依然被沙库有趣的故事所吸引,所以还是心不甘情不愿地分给了不干活的沙库过冬的食物。
[日] 厚い毛皮の陰に北風を避け、獣糞じゅうふんや枯木を燃した石の炉ろの傍で馬乳酒を啜すすりながら、彼等は冬を越こす。岸の蘆あしが芽ぐみ始めると、彼等は再び外へ出て働き出した。
[中] 他们躲在厚厚的毛皮下躲避北风,在烧着兽粪和枯木的石炉旁啜饮着马奶酒,度过了冬天。当岸边的芦苇开始发芽时,他们再次走到外面开始劳作。
[日] シャクも野に出たが、何か眼めの光も鈍にぶく、呆ぼけたように見える。人々は、彼がもはや物語をしなくなったのに気が付いた。強しいて話を求めても、以前したことのある話の蒸し返ししか出来ない。いや、それさえ満足には話せない。言葉つきもすっかり生彩を失ってしまった。人々は言った。シャクの憑きものが落ちたと。多くの物語をシャクに語らせた憑きものが、もはや、明らかに落ちたのである。
[中] 沙库也来到了野外,但他眼中光芒黯淡,看起来有些呆滞。人们发现他已经不再讲故事了。即使强求他讲,他也只能把以前讲过的故事翻来覆去地重说一遍。不,甚至连这些都讲不完整。他的语言彻底失去了神采。人们说,沙库身上的附体离开了。那个让沙库讲出许多故事的灵体,显然已经离他而去了。
[日] 憑きものは落ちたが、以前の勤勉の習慣は戻もどって来なかった。働きもせず、さりとて、物語をするでもなく、シャクは毎日ぼんやり湖を眺めて暮くらした。その様子を見る度に、以前の物語の聴手ききて達は、この莫迦面ばかづらの怠なまけ者に、貴い自分達の冬籠りの食物を頒けてやったことを腹立たしく思出した。シャクに含ふくむ所のある長老達は北叟笑ほくそえんだ。部落にとって有害無用と一同から認められた者は、協議の上でこれを処分することが出来るのである。
[中] 虽然附身的东西离开了,但他以前勤勉的习惯却没能回来。既不干活,也不讲故事,沙库每天只是望着湖水发呆度日。每次看到他这副样子,以前那些听众们就会恼火地想起,自己居然把珍贵的过冬食物分给了这个长着一副蠢相的懒汉。对沙库怀恨在心的长老们暗自窃笑。如果一个人被大家公认为对部落有害无益,那么经过商议,就可以将其处置掉。
[日] 硬玉こうぎょくの頸飾を着けた鬚深ひげぶかい有力者達が、よりより相談をした。身内みうちの無いシャクのために弁じようとする者は一人も無い。
[中] 戴着硬玉项链、胡须浓密的权势者们,聚在一起商议对策。没有一个人站出来为举目无亲的沙库辩护。
[日] ちょうど雷雨季らいうきがやって来た。彼等は雷鳴を最も忌いみ恐おそれる。それは、天なる一眼の巨人きょじんの怒いかれる呪のろいの声である。一度この声が轟とどろくと、彼等は一切いっさいの仕事を止やめて謹慎きんしんし、悪あしき気を祓はらわねばならぬ。奸譎かんけつな老人は、占卜者せんぼくしゃを牛角杯二箇こでもって買収し、不吉なシャクの存在と、最近の頻繁ひんぱんな雷鳴とを結び付けることに成功した。人々は次のように決めた。某日ぼうじつ、太陽が湖心の真上を過ぎてから西岸の山毛欅ぶなの大樹の梢こずえにかかるまでの間に、三度以上雷鳴が轟いたなら、シャクは、翌日、祖先伝来のしきたりに従って処分されるであろう。
[中] 刚好雷雨季到了。他们最忌讳和恐惧雷鸣。那是天上独眼巨人的愤怒诅咒声。一旦这声音轰鸣,他们就必须停止一切劳作,闭门斋戒,以驱除邪气。那个奸猾的老人,用两个牛角杯收买了占卜者,成功地将沙库这个不吉利的存在与最近频繁的雷鸣联系在了一起。人们做出了如下决定:在某一日,从太阳越过湖心正上方,到它挂在西岸那棵巨大的山毛榉树梢这段时间里,如果雷鸣超过三次,沙库就将在第二天按照祖传的规矩被处死。
[日] その日の午後、ある者は四度雷鳴を聞いた。ある者は五度聞いたと言った。
[中] 那天下午,有人听到了四声雷鸣。也有人说听到了五次。
[日] 次の日の夕方、湖畔の焚火たきびを囲んで盛さかんな饗宴きょうえんが開かれた。大鍋おおなべの中では、羊や馬の肉に交って、哀れなシャクの肉もふつふつ煮にえていた。食物の余り豊かでないこの地方の住民にとって、病気で斃れた者の外、すべての新しい屍体は当然食用に供せられるのである。シャクの最も熱心な聴手だった縮れっ毛の青年が、焚火に顔を火照ほてらせながらシャクの肩かたの肉を頬張ほおばった。例の長老が、憎にくい仇かたきの大腿骨だいたいこつを右手に、骨に付いた肉を旨うまそうにしゃぶった。しゃぶり終ってから骨を遠くへ抛ほうると、水音がし、骨は湖に沈しずんで行った。
[中] 第二天傍晚,人们围坐在湖畔的篝火旁,举行了盛大的宴会。在大锅里,混杂在羊肉和马肉之中的,还有可怜的沙库的肉,正咕嘟咕嘟地煮着。对于食物并不算丰富的这个地方的居民来说,除了因病而死的人之外,所有新鲜的尸体理所当然都要被当作食物。沙库最热心的听众——那个卷发的青年,一边被篝火烤得满脸通红,一边大口嚼着沙库肩膀上的肉。那位长老,右手拿着他深恶痛绝的仇人的大腿骨,津津有味地吮吸着附在骨头上的肉。吸吮完后,他把骨头远远地扔了出去,只听“扑通”一声水响,骨头沉入了湖底。
[日] ホメロスと呼ばれた盲人めくらのマエオニデェスが、あの美しい歌どもを唱うたい出すよりずっと以前に、こうして一人の詩人が喰われてしまったことを、誰も知らない。
[中] 在被称为荷马的盲人迈俄尼德斯吟唱出那些优美的诗歌之前很久很久,就这样有一位诗人被吃掉了,而无人知晓。